• Viola Saga(2022)

      Chamber Music
    • Nadia Sirota(viola)/Music Future Band

    • Duration - 19:40

    • Mov.1 10'

    • Mov.2 9'

    Viola Saga

    Viola SagaはMUSIC FUTURE Vol.9で初演するために作曲した。今回は世界で活躍している若手作曲家Nico Muhlyとのジョイントコンサートであるが、同時にニューヨークからヴィオラ奏者のNadia Sirota氏を招聘していて彼女のために書いた曲である。

    タイトルのSagaは日本語の「性──さが」をローマ字書きしたもので意味は生まれつきの性質、もって生まれた性分、あるいはならわし、習慣などである。同時に英語読みのSagaは北欧中世の散文による英雄伝説とも言われている。あるいは長編冒険談などの意味もある。仮につけていた名前なのだが、他に思いつかず、これにした。

    僕自身は今年から海外のコンサートが再開し、作曲依頼も溜まりに溜まっていたためこなしきれず、凄まじいカオスの中にいた、いやまだいるのだが、そのためSagaは8月ニューヨークのRadio City Music Hallでの5回公演の直前にやっとII.の基本モチーフが浮かんだ。初演するコンサートの2ヶ月前である。もちろん考えていたのは数年前に遡るし、そもそもNicoとNadiaは2020年のMFに来る予定だった。その時からCOVID-19のため何度も中断を余儀なくされ、今日に至った。Radio City Music Hallの楽屋でNadiaと一緒に約2分のDemoを聞いた。彼女のホッとした安堵の表情が忘れられない。その後いくつかのコンサートと、作曲をこなしつつ10月の初め、フランスツアーの直前にやっと完成した、、、と思う。

    曲は2つの楽曲でできていて、I.は軽快なリズムによるディヴェルティメント、II.は分散和音によるややエモーショナルな曲になっている。特にII.はアンコールで演奏できるようなわかりやすい曲を目指して作曲した。この2~3年は前衛的なものより、わかりやすいものを書きたいと思っていた。つまり誰もが疲れている時に疲れる曲を聞いてもらおうとは思わなかった。その意味ではノンジャンル音楽ではある。が、リズムはかなり複雑で演奏は容易ではない。Music Future Bandへの信頼があってこその作曲である。

    2022年10月
    久石譲